荒廃へとまっしぐら

無症候性キャリアと呼ばれるもの

先に述べておくと、生存していたアリスは確かに感染者の群れに襲われてしまい、死んでいるはずでした。そうでなくても生きているかどうかもわからなかった彼女は、命からがら何とかかつての自宅まで逃げ帰ることに成功し、そこで静かに過ごしていた。そこへ子供達に発見されて生存を確認されていましたが、この時既に彼女は感染をしていたのです。ですが発症していない状態で正気を保っていられるその理由を軍が調べていくと、彼女は『無症候性キャリア』と呼ばれる特異体質であることが判明した。

これは実際にあるもので、病原体に感染しているものの表面的に症状は現れないが、同時に感染していることに変わりはないため病気がほかの人に感染する可能性がある、というものになります。日本で代表的なのはB型肝炎などが当てはまります。それらはいつ発症するかも分からない状態で、自分たちがどのように苦しむことになるかも知れない極限状態の中で葛藤しながら生きていくこととなる。

作中ではアリスがこのキャリアに当てはまり、感染者でありながら症状は発症しなかったためにまだ人間でいられたという。こうした実例は世の中に多少ありますが、世界的に視点を広げるとある女性の話題が挙げられます。

メアリー・マローンという女性

20世紀初頭において流行したチフス菌、それを発症していながらも自身では感染者であることは知らずに過ごしていたものの、病原菌を撒き散らしていた『メアリー・マローン』という女性がいました。何不自由なく過ごしていた彼女だったが、周辺では何故かチフス菌に感染する被害が続出する。当時衛生士として活躍していたジョージ・ソーパー氏の調査によってメアリーが感染源であることが判明し、その身柄を抑えるために最終的に警察と協力して確保して病院内で隔離する事に成功する。

自分は無実だと訴えて裁判を起こし、勝訴してその後の生活で特定の仕事に付かないようにとの条件のもとで釈放されて自由のみとなった。しかし5年間の消息を絶ち、さらにはチフス菌がまた流行する事件が起こったことでメアリーは再度病院へ隔離されてしまった。それから生涯にわたって表の世界に出ることなく一生を終えたものの、音信不通となっている最中で病院で偽名を使って調理を担当していたという、病原菌をばらまいていた事実が発覚します。

それまでは同情的な意見が集まっていましたが、こうした経緯から後に『腸チフスのメアリー』と呼ばれ、死神として見られるようになっていった。

28週後の世界でも

メアリーの例でもあるように、28週後のアリスも同様のケースだったのです。そのため本人は感染傾向はないものの、いつ発症するかも分からない上に感染者を生み出す恐れから軍によって隔離される。その禁を破ってしまったのが彼の夫であるドンであり、彼女に接したことで感染者となり、後に大混乱を引き起こしてしまうのだった。

子供達に目が向けられる

感染を押しとどめるための保護地区が一転して地獄と化し、誰が感染者かわからない状況の中で軍は全ての人間を殺す司令を出します。その中で、感染を恐れていた少佐がアリスの子供達にも菌を保有するものの感染はしない特性を持っているのではないかとして、保護するのだった。ここからはドーン・オブ・ザ・デッドさながらの血みどろの殺し合いになっていく。秩序など何処にいったかと嘆かれるほど、簡単に人間同士の統制は崩壊する姿が無残そのものだ。

感染を保有したまま

アンディとタミー、2人は何とか生き延びることに成功したものの、アンディが母と同じ感染体になりながらも発症しない無症候性キャリアだった。そのため実質的に感染者だったが、そのことを2人は秘匿したまま悪夢の血となったイギリスを後にして、新天地での暮らしを期待する。しかし最終的に向かったフランスはパリと思しき街で感染者達が跋扈する姿が映し出されて、物語は終焉へと向かいます。

この作品でもどちらかといえば希望もない、あるのは絶望と恐怖に満ち足りた世界だけという点では、世紀末というべき惨状かもしれません。

文明崩壊した後の世界を描いた映画特集